織田作之助(オダサク) 『夫婦善哉 完全版』(雄松堂出版)



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読みました。「オダサクの幻の続編」ということですが、あの大阪人の心の名作『夫婦善哉』に、とってつけたような続編だったら凹むなぁ、と思って、本はずいぶん前に買ってはいたものの、なかなか読まなかったのですが、ついにとうとう読みました。

正編からちゃんと読んでみたら、じつは続編の別府行きは正編から複線が張られていて、最初から最後まで、オダサクの中では、ちゃんとプロットが練られていたことに気づかされました。驚きましたねぇ。正編で一端、筆をおいたわけですが、すでに別府行きの続編は最初から想定されていたんですな。優れた作家って、ここまで用意周到に物語を準備しておくんやなぁ、と感心しました。

続編も軽いタッチで終わってます。「午年同士で午が合う」なんて落語みたいなサゲです。しかし、正編のラストシーンの、蝶子と柳吉が夫婦善哉を食べて

「こ、こ、ここの善哉はなんで、二、二、二杯ずつ持って来よるか知ってるか、知らんやろ。こら昔何とか大夫ちう浄瑠璃のお師匠はんがひらいた店でな、一杯山盛にするより、ちょっとずつ二杯にする方が沢山はいってるように見えるやろ、そこをうまいこと考えよったのや」蝶子は「一人より女夫の方がええいうことでっしゃろ」ぽんと襟を突き上げると肩が大きく揺れた。蝶子はめっきり肥えて、そこの座蒲団が尻にかくれるくらいであった。

・・・これほどのオカシミ、軽妙洒脱には至っていません。続編は、正直、ちょっと重い。時代の空気のようなもんでしょうか。それはそれで興味深いんですが、オダサクが続編を書き上げておきながら、あえて公開しなかった理由も、よくわかります。

面白かったのが、別府人は、大阪人に非常に親近性を持っているとか。その昔、別府に湯治で遊びにくる人の半分以上が大阪人だったそうで、大阪・天保山から船で出て、一晩寝ると別府につく。別府人からすると大阪は隣町のようなイメージなんだとか。これは別府オンパクを体験したオダサク倶楽部の井村先生から聞かされた話です。なるほどなぁ。

この距離感は、例えば夏目漱石の『坊つちやん』の「東京育ちの清」と「松山に赴任する坊つちやん」の距離感とはずいぶんと違います。訳ありの、大阪の男と女の、定番の不倫旅行先、駆け落ち場所・・・大阪と別府は、そういう都市関係にあった。そういう雰囲気の中に、続編はあります。舞台設定の妙ですな。これはこれで、非常に味わい深いものでした。


2009年 1月 29日
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