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幻の歴史書『八幡荘伝承記』と陸奥龍彦

2023 年 1 月 13 日

陸奥家ファミリーヒストリー。曽祖父・陸奥利宗の兄・陸奥龍彦。高知・越知の国学者・郷土研究家らしいのですが、その陸奥龍彦の弟子が結城有(たもつ)という。

この結城有について書かれたのが佐川町発行、明神健太郎著の『わが町の人びと』。この本によると結城有は県会議員の息子だそうですが、病弱だったので学校通いではなくて家庭教師を雇ったらしい。その家庭教師が陸奥龍彦だったそうです。

結城有は青年時代は共産活動に身を投じたこともあるようで、当時の有産階級の息子にはよくある話ですが、なかなか面白い経歴の方です。

結城家というのは代々、代官を務めたという名門らしく、その蔵の中にあったというのが『八幡荘伝承記』という書物。結城有は興味を惹かれ、師匠の陸奥龍彦に見せたところ、これは「世にも珍しい、大変貴重な書物である」と太鼓判を押された・・・という話になっています。これがしかし、いま現在に至っても世の中には出回っていない「幻の歴史書」となっているらしい。

本の中身は高知の南北朝時代のことが書かれた歴史書らしく、結城有も高知の史学会などに『八幡荘伝承記』を引用して、いろんな記事、エピソードを紹介していたそうですが、原本自体は、なぜか外部の方には見せず、門外不出のものにしてしまったという。

しかし写本がいくつかあるようで戦後に下村效という歴史学者が、それらを調べたところ、どうも使われている文言、語句などに明らかに時代考証的におかしな部分があり、「偽書である」と認定されたとか。原本も出てこないし、正確な検証もできず、結果、今に至るまでも高知史学会から黙殺されているらしい。

要するに南北朝の頃に高知の人たちが南朝方として戦った…というようなことが書かれている歴史書ですが、そこにいつのまにか時代精神の天皇万歳、皇軍万歳(実際に書物の中に、中世には絶対に使われなかった皇軍なんて言葉が出てくるらしい)というプロパガンダ的な記述が含まれてしまったようで・・・。史料的価値に疑問符がついてしまった。

陸奥龍彦のことを調べていたら戦前の高知史学会の謎(闇?)のような話が出て来て至極、驚いた次第ですが、しかし、それにしても陸奥家のご先祖さまが「貴重な本である」と太鼓判を押した(そういう意味でいえば龍彦も歴史捏造?に加担した側かもしれないw)ものですから、やっぱり、いつの日にか世の中に出てきてほしいものです。

最近は歴史を捏造し、ニュースを隠蔽し、フェイクだらけの世の中ですから。メディア・リテラシー向上のためにも「偽書研究」は重要な仕事になってます。『八幡荘伝承記』も誰か取り上げないかな…?

ちなみに二枚目の画像にある『八幡荘伝承記』の写本は庄田・宮ノ原寺の亀鳳法印という方が幕末の頃に写した…という話らしいのですが、この宮ノ原寺(廃仏毀釈で残念ながら廃寺)にあったのが「宮ノ原塾」で、その宮ノ原塾で学んだのが陸奥龍彦です。

謎に包まれた『八幡荘伝承記』で、誰がどのような経緯で捏造したのか?というのもわかりませんが、本の由縁、由来には、どうも宮ノ原寺(宮ノ原塾)の関係者がチラホラ見え隠れするのが実に興味深い。

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※追記
『八幡荘伝承記』に関してはこちらの方のブログが面白かったです。

■もう一つの歴史教科書問題:『八幡荘伝承記』と『東日流外三郡誌』

http://rekisi.tosalog.com/%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8/%E5%85%AB%E5%B9%A1%E8%8D%98%E4%BC%9D%E6%89%BF%E8%A8%98%E3%81%A8%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%B5%81%E5%A4%96%E4%B8%89%E9%83%A1%E8%AA%8C

越知史談会・吉良武氏は「佐伯文書が第一級の歴史資料とすれば、伝承記の内容もきわめて精度の高い歴史資料といえよう」として高く評価しています。こういう方もいる。嬉しい。


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