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帝国主義は総力戦

2023 年 2 月 5 日

陸奥家ファミリーヒストリー。曽祖父・陸奥利宗の兄・陸奥龍彦。高知の小学校校長、家庭教師、国学者、郷土研究家などをしていたようですが、家庭教師として教えたのが佐川町の大庄屋・結城有。

その結城有の先祖伝来の蔵にあったのが幻の歴史書『八幡荘伝承記』。これを陸奥龍彦は入手して、素晴らしい本であるから大切にするようにと弟子の結城有に言い含めたという。

この本は南北朝時代の土佐のことが描かれた資料で、土佐の南朝方の豪族の活躍などが描かれている。その時代を描いた土佐の歴史資料はあまりないそうで、この本の一部を結城有が土佐史学会で紹介したときは「失われていた土佐の南北朝史が蘇った!」と随分とセンセーショナルに騒ぎ立てられたとか。

なんせ時代は昭和の大政翼賛体制の頃。日本全体が皇国史観に凝り固まって、天皇崇拝であり、南朝崇拝であったから、『八幡荘伝承記』が土佐史学会の絶賛を浴びたのもよくわかる。

結城有とその仲間たちは土佐の南朝方の豪族・武将を顕彰するために「土佐南北朝史蹟探究会」なるものを立ち上げて、土佐をまち歩きしていたらしい。画像はそのうちの一枚。昭和15年10月のもの。

結城有が手掛けた人生最大の一大プロジェクトが「土佐南朝祭」。南朝の天皇のために奮起し、戦場の露と消えた「河間一族600年記念慰霊祭」でもあった。昭和16年11月2日の写真が2枚目。

以上は明神健太郎『土佐太平記』の中に収められていた写真。明神健太郎は結城有の弟子(陸奥龍彦からすれば孫弟子)で、この『土佐太平記』は結城有の『八幡荘伝承記』をモチーフに描かれた創作歴史小説。

『八幡荘伝承記』は歴史書としては、どうも偽書、偽作、改竄のような痕跡が見受けられるそうで、その疑惑を晴らすには本を公開するしかないのだが、結城有は『八幡荘伝承記』を結局、公表しなかった。それどころか門外不出の禁断の書としてお蔵入りしてしまったとか。

おかげでいまも高知、土佐の史学会では『八幡荘伝承記』は黙殺されていて、タブー扱いされているという。我が先祖の陸奥龍彦が高く評価した歴史書がニセモノ!?偽書!?というのは、それはそれで無責任な子孫としては非常に面白く興味深い。

個人的に知りたいのが陸奥龍彦は「土佐南北朝史蹟探究会」や「土佐南朝祭」と、どういう距離感、関係性であったのか?というところ。もしかして昭和15年、昭和16年の写真に写ってないか?と思ったりもするが、陸奥龍彦の顔がわからないので、写真の中にいるかどうかも不明。わからない。

「土佐南朝祭」も「土佐南北朝史蹟探究会」も敗戦によって活動は停止していったらしい。南北朝時代の土佐の天皇万歳の豪族の顕彰なんて誰も求めてないし、喜ばない。偽書、偽作、改竄、捏造の皇国史観の敗北。

帝国主義は総力戦ですからな。大衆もメディアも歴史も学問も芸術も、都合のいいように帝国主義に捻じ曲げられ、屈服し、帝国に身を捧げ、殉死していったということでしょう。


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