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ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』。主演の役所広司氏は円熟の名演技でカンヌ男優賞を受賞した。

2024 年 1 月 5 日

ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』。主演の役所広司氏は円熟の名演技でカンヌ男優賞を受賞した。

東京の公衆トイレのクリーニングスタッフの日常であるが、仕事に対する姿勢が禅僧的というか究道的というか精神修養的というか、こんなスタッフ、現実世界にほんまにおるんやろか?と思うほどストイックで、まずそこに強烈な違和感を覚える。

また休みの日には古本屋に通って幸田文やウィリアム・フォークナーなどを読み、さらにアニマルズやキンクス、オーティス・レディング、ルー・リードなどロック黄金時代の名盤のカセットテープ(!?)を多数、保持していたりする。

随分と読書人、教養人、趣味人であるが基本、社交的な人間ではなく、また生家(資本家の父親との関係性?)と何かしらの確執があるようだが、その辺の描写は匂わせ程度なので、いまいち詳細はよくわからない。

そもそもなんでトイレのクリーニングスタッフを映画の主人公に?と疑問に思って調べてみたら、これは東京オリパラのためのプロモーション・フィルムなんですな。

僕は全く知らなかったが東京オリパラのさいに「THE TOKYO TOILET(ザ トウキョウ トイレット)」プロジェクトなるものがあり、渋谷区にある17の公衆トイレを16人の建築家やクリエイターの手でリデザインしたという。映画はこのトイレを紹介したいということからスタートしたもので、それでトイレのクリーニングスタッフが映画の主人公に設定されたらしい。

映画を製作した柳井康治氏はユニクロの柳井正会長の次男。また映画の脚本家でプロデューサーでもある高崎卓馬氏は電通の人間でオリ・パラ組織委員会で企画財務を担当し、エンブレム盗用事件の関連人物でもある。

外国人が日本に来るとトイレのウォシュレット機能の性能、技術に驚くらしいが、このやたらとデザイン性の高い公衆トイレは、そういう外国人にウケる日本のトイレ事情の最先端を「お・も・て・な・し」文化として見せつける!というような意図があったらしい。

東京オリパラは招待の段階から賄賂工作疑惑があり、運営中には談合やら癒着やらが横行してスポンサー企業、大手広告代理店(電通含む)、大手関連企業が「五輪汚職事件」として起訴されたり、有罪判決を食らっている。「復興五輪」とか「アスリート・ファースト」といった美辞麗句を並べつつ、実態は資本家の、資本家による、資本家のための公金横領、中抜き、カネまみれの実に情けない五輪であった。

こういう背景を鑑みると、この映画で描かれるトイレのクリーニングスタッフのリアルでない「清貧的」な仕事ぶりや生き方が、いかにも虚飾的で、嘘偽りで、欺瞞に満ちたものか?と思わざるを得ない。誰か実在の人物のモデルがいるわけでもない。お金持ちの人たちが考える想像上の、理想のトイレ・クリーニングスタッフが描かれている。この非人間的で、記号的で、血肉の通わない、頭でっかちなフィクション性が、ある意味で東京的といえるのかもしれない。

しかし個人的に興味深かったのは、主人公の生活エリアがどうも墨田区、台東区エリアらしいところ。主人公の行きつけの風呂屋として電気湯が登場したり(この電気湯では顔半分、口まで湯船につけたりして、ちょっとダメ人間らしさを醸し出している)、隅田川・桜橋、浅草の地下商店街の居酒屋「福ちゃん」などが何度も登場してくる。

渋谷区のデザイン性の高い虚構的な公衆トイレに対して、主人公が住む墨田区・台東区の下町の光景や生活感は実にリアルで、安心を覚えたりもする。役所広司氏の演技が生きているのは、これらの墨田区・台東区のシーンで、自分の見知った光景、風景に出くわして、ちょっと嬉しくなった。去年、東京七墓巡り復活プロジェクトで歩いたエリアであったし。

墨田区・台東区エリアなので当然、スカイツリーも其処彼処で登場するが正直、スカイツリーは食傷気味ですな。高すぎて、見えすぎるというのは、なんとも心象にはなりません。タワーというのは小さい方が愛嬌があって品格があります。スカイツリーより東京タワー、東京タワーより船堀タワーの方が断然、良いw 心象になります。「ふるさと」になります。


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