中之島美術館にて『決定版!女性画家たちの大阪』
中之島美術館にて『決定版!女性画家たちの大阪』。
2006年になんば・高島屋で開催された『島成園と浪華の女性画家』を僕は観に行っていて島成園や女四人の会の活動に衝撃を覚え、図録まで購入していたのですが、今回の展示はその後継で「決定版!」とか。
東京画壇、京都画壇の研究や評価は著しいですが、なかば世間から忘れ去られているのが大阪画壇の哀しさ。いや、そもそも大阪には画壇(と呼べるほどの組織)があったのか?という論議もあるほどで、これは、しかし国の影響もあり、大阪には私立の美術系の大学はたくさんありますが、いまだに国公立の美術大学がなかったりする。
結果として美術畑のアカデミシャンが大阪ではなかなか育たないし、自然と東京画壇、京都画壇などをフィールドにする。大阪画壇(大阪の画家たち)を研究しても、残念ながらアカデミックな世界では、いまいち評価されないというわけです。
大阪行政もていたらくで専門的かつ公的な美術館がなかなか出来なかった。大阪市立近代美術館は「準備室」のままで30年以上も経過した。もはや「モダンな近代美術館」を作る時代でもなくなり、「ポスト・モダン、コンテンポラリーな現代美術館」として、ようやく近年、中之島美術館としてカタチとなったが、この辺の情けない顛末は大阪のみならず、日本の美術界そのものにとっても大いなる損失であり、不毛の時代であった。
こんなこというとあれですが大阪行政が悪いということは結局、大阪市民、大阪府民が悪いということです。行政を動かす力があるのに、その力を行使しなかった。自分たちの足元にある、大阪画壇の素晴らしい絵画、美術、宝の山に、まったく無理解で無関心で無教養で無知以外の何者でもなかった。うう。つらい。
しかし伝統やアカデミックといったヒエラルキーが強くなりがちな東京画壇や京都画壇と違い、大阪画壇はよくも悪くも自由闊達。草の根的で多様性に満ち溢れた百花繚乱な大阪画壇の先鋭、独自性、面白さ、ユニークさ、前衛は大阪画壇を愛してやまない関係者各位の熱意のおかげで、徐々にではあるが知られるようになってきたし、大阪の女性画家たちの実態も、その詳細がわかるようになってきた(それでもまだいまいち詳細がわからない作家もたくさんいるようだが…今回の展示でも詳細不明、今後の研究が待たれると解説されている作家が数多くいた)。今回の企画展は、その成果発表というわけです。
男性画家の描く女性画は、やはりどこか理想化された女性像が投影されている。モデルがそもそも若く、美しいことが多い。しかし女性画家たちが描く女性画は、女性のリアルな、実存を描きます。ただ若さや美しさだけを描くものではない。むしろ女性性の中にある複雑さや醜さやいやらしさや穢らしさや未熟さや酷さや老いがどうしても滲み出たりする。ミロのヴィーナス像のような完璧な美を描こうとしない。そんなものはない、仮にあっても一瞬、刹那のことであるということを肌感覚、身体感覚として知っていますから。
また大阪画壇の女性画は、そういう女性画家たちの生々しさが際立つように思う。東京画壇、京都画壇は、やはり男性優位、男性本位であったから女性美への幻想が強い縛りとして存在するが、まだ比較的、大阪画壇は、女性画家たちに一定の自由領域があった。
それはやはり大阪という経済都市の土地柄、都市性が反映されていて、そもそも商家文化は女性優位ですから。船場の大店では男の子が生まれたら、みんな絶望したといいます。大抵、金持ちのボンは苦労知らずでアホボンになる。女の子が生まれたら万々歳。商売がわかっている叩き上げの、やり手の手代を見つけて入婿にしたら商売が繁盛して店もますます大きくなる。
江戸時代、封建社会、武士社会の場合は、男の子が生まれないと、お家お取り潰しになるという時代ですから大阪の商家文化が、いかに特殊な環境下にあったか?がよくわかる。自然と女性たちの存在が一目置かれるし、ごりょさん、いとさん、こいさんが大事にされた。経済力もあるから教養が大事であるとお茶、生花、お琴といった芸事を嗜むものも多く、もちろん書や絵もお稽古として推奨された。
実際に大正時代の大阪画壇では帝展、文展に入選した画家の2割以上が女性画家だったりするという。これは東京画壇、京都画壇にはない傾向で大阪画壇の大いなる特徴、特性であり、誇りだといえよう。
企画展では第五章が撮影可能で、島成園や女四人の会、生田花鳥といった偉大なる女性画家たちの画塾で学んだ後継の女性画家たちがクローズアップされていた。全く名前も聞いたことがない女性画家がてんこ盛りで、いや、これは刮目するどころではない。底が見えない。奥が深すぎる。「決定版!」などというが、これはまだまだ途中過程であろう。
大阪画壇のポテンシャル、女性画家たちの可能性、その全貌はいまだに解明されていない。これから、でしょう。2006年からの18年間で、いろいろと研究が進んだのでしょうが(ほんまに素晴らしい仕事です!頭が下がる)個人的には「決定版!」の次を大いに期待したいし、大阪の町衆には声を大にして呼びかけたい。これは観に行きなはれ!!