いわきは日本一深い都市ではないか?
いわき市のナショナル・サイクル・ルートへの取り組み。
いわき市は日本の中核市の中で、最も「自動車依存率が高い都市」です。どこをいくにも自動車が基本で、歩いている人、自転車の人が非常に少ない。かつては「日本一広い市」でしたから、まちの規模が広範囲であるだけに、自動車移動に偏重してしまうのは、わからないでもないです。
自動車は、しかし「Door To Door」で家から目的地までの2点のみの移動になりがちです。自動車で走っていると、時速30キロ、40キロ、50キロなんて移動スピードでは、道中のこと、まちのことがなにも見えてこない。わからない。道中に史跡案内の看板があったとしても、止まって、降りて、それを見るというような行為は難しい。また後ろから車がビュンビュン走ってきますから。
これが徒歩や自転車だと、そういう「逍遥」(フラフラと巡る)ということが容易になってきます。自動車よりも、格段にまちのことが見えてくる。道中にある史跡やお地蔵さんや寺社仏閣や昔ながらの看板や古い民家や妙な細路地や懐かしい和菓子屋が見えてくる。ふらっと立ち寄りたくなるし、立ち寄れる。現地の人と出会って、挨拶なんかも交わして、そこで暮らす人々の息吹やくらし、生活、ライフが見えてくる。風土が見えてくる。ふるさとがわかってくる。
まちへの解像度が上がる。そうやってパースペクティブな視野、まなざしを獲得することで、わがまち理解が進み、ふるさとへの興味・関心が出てきて「自分が生まれ育ったいわきは、こういうまちなんだ」という認識から、アイデンティティや愛郷心などが芽生えてくる。
ひとやまち、歴史、文化、風土とふれあうには、ヒューマンなスピード感…「歩く」とか「自転車」といった「アナログなアクティビティ」が必要で、観光学でもスローツーリズムという言葉がありますが、自動車ではスローツーリズムは絶対に成立しえないのです。
いわきの若い人たちに、やっぱり、もうちょっといわきのことを知ってもらいたいし、そして知れば知るほど、とんでもないまちだということがわかってきます。かつて「日本一広い市」というのは伊達ではなくて、広いことで海、山、川、平地、城下町、鉱山、温泉街、宿場町など、すべて網羅していて、まるで日本の縮図です。「いわきは日本一深い都市ではないか?」と最近、思ったりもしています。それぐらい、いわきという都市の歴史、文化、風土、物語、スケールやキャパシティは多様で多彩で百花繚乱です。
こういう郷土理解、郷土愛(パトリオティズム)を涵養する自転車プロジェクトの取り組みが「いわき時空散走」ですが、ナショナル・サイクル・ルートのようないわき、浜通りを縦断する自転車による新しいアクティビティが注目、実装されようとしている…というのも非常に興味深い現象だなぁと思っています。
日本で最も自動車依存率の高い都市・いわきだからでこそ、クルマ依存の問題(健康問題、交通弱者問題、公共交通網の弱体化、まちへの無理解、まちづくりへの無関心、市外転出者の増加)が顕在化し、深刻化していて、であるが上に、ある種の揺り戻し的な動き(歩きや自転車、ヒューマンスケールな都市への回帰、平まちなかの「ほこみち」指定など)が始まっているのかもしれません。