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沈壽官といえば司馬遼太郎の『故郷忘じがたく候』

2024 年 1 月 30 日

鹿児島。日置市。美山。沈壽官窯。

美山といえば薩摩焼。薩摩焼といえば沈壽官。沈壽官といえば司馬遼太郎の『故郷忘じがたく候』。

鹿児島に来ると、あちらこちらで司馬遼太郎の痕跡が残っている。幕末、維新の主要人物は薩摩出身者が多いから現地の鹿児島をよく訪れたようで面白そうな題材を発見すると悉くネタにして小説にしている。

『故郷忘じがたく候』は短編だが、数ある司馬遼太郎作品の中でも特に印象深い。まず司馬遼太郎が存命中の人物(14代沈壽官)を主人公にしたのは、この作品のみであるということ。それだけでも異色作であることがわかる。

薩摩焼は秀吉の朝鮮出兵・慶長の役(1592~98)に参加した島津義弘が朝鮮陶工80数名を捕虜として薩摩へ連れ帰り、焼き物を作らせたことが発祥となる。朝鮮陶工たちは遠い異国の地・美山で多くの受難を乗り越えて日本はおろか世界にも認められる薩摩焼を創始し、発展させてきた。

もはや日本に連れ去られて400年近い年月が経ち、朝鮮陶工の子孫たちは日本に帰化しているが、それでも「故郷忘じがたく候」という望郷の念を抱き続け、今日も薩摩焼を焼き続けている。故郷とは何か?民族とは何か?国家とは何か?といった命題を考えさせられる小説として、これほどの名作も他にあるまい。

僕は中学生の頃に司馬遼太郎狂いになり、全集を読破したが、いつかは行ってみたいと憧れたのが美山だったので今回、訪れることが出来て一人、感無量でした。沈壽官窯の中にはミュージアムもあり、残念ながら撮影禁止であったが白薩摩、黒薩摩の逸品、名品揃いで、いやあ、眼福でした…。

鹿児島、薩摩は火山が多い。火山は特殊な土壌を産む。そこから独特の釉薬も発見される。薩摩焼もまた風土(火山)の恵みから齎される。奥深い。


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