街歩きで地域も元気に(日経ネット関西版)
http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/news001512.html
歴史散策などの街歩きが、若者から高齢者まで幅広い層に人気だ。先週はテレビアニメ「忍たま乱太郎」の登場人物の名字と同じ地名巡りが兵庫県尼崎市内でブームになっていることや、姫路城周辺で観光ルートづくりが進んでいることが報じられた。健康や地球環境への関心の高まりも「歩く」人気を支えている。地域の活性化にも生かせそうだ。
忍たまファンを狙い、七松八幡神社が作った絵馬
「忍たま乱太郎」原作者の尼子騒兵衛さんは尼崎市の出身で、「猪名寺乱太郎」「七松小平太」「潮江文次郎」といった具合に、市内の地名にちなんだキャラクターをたくさん登場させている。昨年夏ごろから高校生や大学生ら全国の忍たまファンが、地名を表示したバス停や公園、交番などを訪れてはブログなどで訪問記を公開し、来訪者が増えている。登場人物に関連する地名は20カ所以上あるという。尼崎市は工業都市のイメージが強いが、中世以降、京の都と西国を結ぶ要衝として発達し、寺が集まる寺町界隈(かいわい)や尼崎城跡が残る歴史都市でもある。人気スポットの一つ、七松八幡神社は尼子さんに原画を描いてもらって絵馬を作り、1枚1000円で授与を始めた。全国から同市を訪れる人たちが増えることについて、同神社は「地域活性化にもつながる」と歓迎している。
一方、兵庫県姫路市内の市民や経済人でつくる姫路円卓会議は「まちあるき」「歴史講座」の2シリーズから成る「夏の特別観光講座」を始めた。2014年度まで続く姫路城の平成の大修理の期間中に観光客の減少が予想されるため、天守閣だけでない新たな魅力を発信して集客につなげるのが狙いという。城の周辺をテーマに沿って歩くまちあるきシリーズでは「姫路の伝説めぐり」「姫路城の石垣のおはなし」「内濠(うちぼり)をあるく」など7ルートを設定。それぞれ約2時間で、播磨学研究所研究員ら専門家が案内役を務め、9月末までに計16回開く。それ以降も継続する予定で、城周辺のガイドマップも作るという。
こうした街歩きイベントを大規模に展開した例として、06年の「長崎さるく博」が挙げられる。「さるく」は長崎の方言で「ぶらぶら歩く」という意味だ。同博は従来のパビリオン中心の囲い込み型地方博とは違い、長崎市内に「出島」「唐人屋敷」「中華街」などテーマごとに42のコースを設け、市民ガイドを案内役に、観光客や市民が散策を楽しんだ。約7カ月間の期間中の参加者は、推定で延べ1023万3000人と目標の960万人を上回り成功を収めた。
さるく博を手掛けたプロデューサー、茶谷幸治氏をチーフプロデューサーに起用して、大阪市や大阪商工会議所などは「大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会」を設立。08年秋から街歩きを楽しむイベント「大阪あそ歩(ぼ)」を始めた。今春は4~5月に「天下一の花街・大坂新町を歩く」など25コースを設定、1167人が申し込み好評だったという。今秋は50コースと2倍に拡大して市内24区を網羅する予定だ。同協議会は「大阪は1500年の歴史を持つ街。路地裏や迷路は大阪文化そのもので、これが面白い」と大阪再発見の楽しみを説明する。
関西は歴史ある街が多く、街ごとにユニークなコースを作れそうだ。こうしたコース作りを私たち住民が自分たちの手で行えば、自身にとっても街の魅力を再発見する機会になるだろう。地図や案内板を作ったり、ガイドをやったり、といったボランティアもできる。人を呼び込んで地域の活性化につながるだけでなく、子どもたちに地域の歴史や魅力を伝えることにもなる。地域のコミュニティーの力が弱っているといわれる昨今だが、まず地域としてまとまるために取り組みやすいテーマではないだろうか。人が集まるだけでなくコミュニティー再生の一歩となるなら、なお良い。(小)