西宮えびすは、傀儡師の発祥地でもあります。
西宮えびすは、傀儡師の発祥地でもあります。えべっさん信仰を広めるために、箱人形を使って村村を巡って宗教劇を展開したんですな。河原者ですが、えべっさんに使える神人として治外法権的な立場で、傀儡女、渡り巫女、流れ巫女(男性と性行為をしてケガレを祓う)なども数多くいました。
この傀儡師の一団が、やがて浪華の地にやってきて、集落として住み着いたのが道頓堀川界隈。市中である大坂三郷からは外れた悪所(アジール)ですが、ここに遊郭や死刑場、墓場が設置され、さらに芝居小屋(芝居を観るなんてことは「悪所通い」でした)が設置されて幕府公認となると、傀儡師たちは大いに勢力を伸ばし、これが道頓堀五座に発展。やがて近松門左衛門や竹田出雲といった天才が生まれ、人形浄瑠璃、世界遺産の文楽へと変貌していきます。(ちなみに道頓堀名物の「くいだおれ太郎」というのは電気じかけの文楽人形です。くいだおれ太郎のルーツをたどると傀儡になるんですな)
実際に現代も道頓堀は今宮戎神社の氏子地域で、阪神タイガースが優勝するといちびった若もんが飛び込む橋は「戎橋」で、戎橋筋商店街(船場から考えると心斎橋筋商店街も)は今宮戎さんへの「参詣道」です。十日戎にあわせて、道頓堀界隈の商店街は宝恵駕籠行列などもやっていますが、これは元は花街の遊女たち(このルーツも傀儡女にたどることが可能でしょう)のお礼参り(病気もなく、無事に男性のお相手が務めることができました。ありがとうございます・・・というものです)でした。おもに正月と六月晦日に行われていたようで、正月は今宮戎。六月晦日のお礼参りは愛染さんの宝恵駕籠行列として続いてます。
傀儡発祥の西宮と、文楽発祥の今宮(道頓堀)。西宮と今宮は「えべっさん信仰の、河原者のまち」という意味でリンクしている。西宮界隈はそうした「まちの匂い」が廃れましたが、今宮界隈は、いまだに匂いが濃厚に残ってます。また、こういうまちからは、近代になっても「客人(まれびと)」の折口信夫(木津村。のちの今宮村出身です)のような異形な民俗学者が出てくる。ゲニウス・ロキ(地霊)というのは、すごいもんです。
画像は西宮の傀儡師。