大阪に着きてはじめて見し空を元禄の世の空とおもひぬ
2011 年 12 月 9 日
「大阪に 着きてはじめて 見し空を 元禄の世の 空とおもひぬ」・・・東京出身の歌人・吉井勇は、かつて大阪の空をこう歌った。
大坂の陣によって豊臣家が滅亡すると、大坂は商都として繁栄をはじめた。淀屋、住友、鴻池といった財閥が成長し、天下の富の七割を占めたという船場、天下一の花町・新町、世界初の先物市場の堂島、芝居街の道頓堀といった百花繚乱のまちを作り上げ、そうしたまちを舞台に「浮世草紙」の井原西鶴や「心中物」の近松門左衛門が登場してくる。京の天皇・江戸の将軍といった権威権力を仰がない大坂の町衆は、自由闊達なプラグマティズムで元禄の世を謳歌した。『好色一代男』の世之介のように、『曽根崎心中』のお初のように、人間がもっとも人間らしく生きようとした元禄こそは、京や江戸にはない大坂の都市文化で、だからでこそ吉井勇はその憧憬を隠さなかった。
この「町衆のまち」という遺伝子は、現代大阪にも色濃く息づいている。大阪のまちを丁寧に歩けば、そこかしこに元禄の匂いや色、雰囲気を感じ取ることができる。元禄的性格の大阪人が精一杯、生きている。高速道路とコンビニとファミレスとファーストフードによって非人間化していく日本の都市の中で、これほど貴重な都市体感はなく、大阪のまちを歩くことは、この「人間らしさ」との邂逅に他ならない。
カテゴリー: 雑感